四国電力伊方原発(愛媛県伊方町)の運転差し止めを、瀬戸内海の対岸の広島県内に住む住民ら337人が四電に求めた訴訟の判決で、広島地裁は5日、原告の請求を棄却した。大浜寿美裁判長は、四電の主張をほぼ採用した上で、同原発の運転によって「住民らの生命や健康が害される具体的危険は認められない」と判断した。原告側は控訴する方針。
判決は、東京電力福島第一原発事故を踏まえて制定された新規制基準について、原子力規制委員会が新基準に適合していると判断し、原発の運転を認めた場合は、「社会的に許容される程度の安全性が確保されていると推認できる」とした。住民側がそれでも安全性が確保できていないと主張するなら、「具体的な危険の存在について、原告が主張すべきだ」とする判断の枠組みを示した。
その上で、原告の主張について検討。原発のある佐田岬半島の沖合2キロ以内に活断層があるとする主張については「四電の海上音波探査の結果、活断層がないといえるものではない」としたが、別の調査結果などから原告の訴えを退けた。
また、阿蘇山で約9万年前に起きた巨大噴火と同規模の噴火が起きれば、火砕流が到達する可能性があるとの主張や、基準となる地震動についても、四電の想定が「過小評価しているとはいえない」と結論づけた。
原告団長で、広島原爆の被爆者である堀江壮さん(84)は判決後、「厳しい判決は覚悟はしていたが残念。放射能被害を身をもって知っている身として、一日も早く原爆も原発もやめるべきだと思っている」と語った。
四国電力は「安全性は確保されているとの主張が裁判所に認められた」とするコメントを出した。
伊方原発をめぐっては、広島高裁で過去2度、3号機の運転を禁じる仮処分命令が出たが、異議審で取り消された。昨年3月の大分地裁判決は、運転差し止めを求めた住民側の請求を棄却している。
四国唯一の原発
伊方原発 愛媛県伊方町に建設された四国電力唯一の原子力発電所。九州に向かって延びる細長い佐田岬半島の付け根近くに位置し、北側の沖合には西日本を横切る「中央構造線断層帯」が走る。いずれも加圧水型で、1号機(56.6万キロワット)と2号機(同)はすでに廃炉が決まった。唯一運転を続ける3号機(89万キロワット)は、2010年からプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料を使うプルサーマル発電を始めたが、現在は一時停止中。